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「三世相」

あらすじ

この曲は全段出語り、通し狂言仕立ての全六幕の世話浄瑠璃という常磐津屈指の大曲である。三世桜田治助の美文に、岸澤家当主四世岸澤古式部が糸を乗せ、初世常磐津豊後大掾(九世常磐津家元四世文字太夫)が節付をした長編であり、初演時には流派の重鎮がこぞって出演した。しかし、あまりの見事な仕上がりに功名争いが生じ、常磐津家元と三味線方岸澤家が分断してしまうきっかけとなってしまう。安政2年(1855)に家元文字太夫の会で素浄瑠璃として発表されたものを、安政4年(1857)に中村座で初演されたもの。

福島屋:店先
福島屋かかえの芸者お園(おその)は六年越しの中で、浪人小柴六三郎(ろくさぶろう)と恋仲にあり、お松(おまつ)という娘をもうけるが永く病の床にいる。悪兄の按摩屋「長庵(ちょうあん)」は金貸しの悪人「七郎助(しちろすけ)」の妾にすべくやって来て、お園に堕し薬を騙し飲ませて腹中の男児(六三郎の落胤)を殺すなど残虐非道。七郎助は居直りお園の腕に彫られた「六三命」という刺青を種に強請るが、福島屋の主人「清兵衛(せいべえ)」は気を利かせ煙草の灰を押し当てて焼き消す。

福島屋:縁切
心ならず恋人六三郎に愛想尽かしをするお園。お互いに将来を誓って彫った刺青は煙草で焼き消されていて、更にようやく出来た男児(世が世なら小倉家の御曹司)までも堕ろして小さくなった腹に触れると、裏切られたと勘違いした六三郎は怒り心頭に刀を取りに戻ってしまう。その後姿を見送りながら、せめて最期は愛する者の手にかかって死にたいと静かに手を合わせるお園だった-。

福島屋:長庵殺し
長庵はその間に、お園の元へ再びやってきて六三郎の探している「小倉の色紙(偽物)」を彼女の前にチラつかせ「七郎助の妾になれ」と迫る。色紙は藤原定家直筆の歌で六三郎が紛失した、彼が小倉家御曹司である証である。争う内に色紙は破れて止めに入った娘お松は、長庵に蹴られわずか五歳の幼い命で殺されてしまう。お園は脇差を抜き取り長庵を殺害。事情を聴いた主人、義侠人である清兵衛の粋な計らいでお園と六三郎は駆け落ちを見逃してもらう。

洲崎堤(すさきづつみ):道行蝶吹雪(みちゆきちょうふぶき)
苦労のありたけをし尽くした病身のお園と、そんな彼女を不憫だと優しく抱きしめる浪人の六三郎。蝶と花が吹雪の様に乱れ飛ぶ景色の中、死出の衣装で洲崎堤を死出の旅へ赴く(道行)二人。ようやく駆け落ちした二人だが険しい道行の末に遂には観念し心中を決意する。南無阿弥陀仏と唱える二人。お園の喉元に小刀を突き、次いで自身の腹を切り裂き愛するお染の亡骸の上にうつ伏せに絶える六三郎。「道行もの」の極みである。

十万億土:
気が付けば真っ暗闇の十万億土。三途の川にいる「畜生塚の婆」から「お松は賽の河原に入った」と聞く二人。顔が人間で体が馬の「地獄馬」が飛脚をしていたり、自殺した役者(八代目市川團十郎)を筆頭に実在した物故者の歌舞伎役者が、黄泉の世界においても忠臣蔵を上演しているなど現実世界とリンクした洒落気のある作品となっている。極楽にある宿に着き休みたいと疲れを訴えるお園だが、その前に閻魔大王の元で調書を受けねばならぬ、という。兄殺しの後ろめたさもあり折角一緒になれた六三郎と離れるのを恐れるお園。婆は二人の極楽行きの口利きをしてやるといい、安心した二人は弘誓の船(死者を運ぶ舟)に乗り込み冥土へと急ぐのだった-。

堕地獄:
牛頭馬頭(ごずめず)の監視する閻魔大王の王宮では真実を映し出す浄玻璃(じょうはり)の鏡にかけられ、長庵の悪事はすべて明らかとなり更に年増の巫女(長庵の情婦)の口寄せから、お園の母親を殺しへその緒を奪って兄に成り済まして散々にお園から好き放題絞り尽くしたことが発覚する。罪状「兄殺し」は「母の敵討ち」という名誉に変わり長庵は悪人仲間で高利貸しの権兵衛と共にそれぞれ熱鉄地獄・等活地獄行き、お園と六三郎は善根功徳により極楽に昇るべしとの宣告を受け寂光浄土に案内される。

極楽浄土:
お園が娘お松を捜しに賽の河原に向かい六三郎は安楽の浄土にやってきた。一心に読経をしていると、彼の前に天童が光を放ちながら現れて彼を戒める。妻子との俗縁を断ち切らねば仏の功力を得る事は叶わぬという。そこへ親と別れ泣き腫らして遂に盲目となったお松が杖を頼りによろよろと尋ねてくる。天童との約束があり父だと言えない六三郎と盲目ゆえに父と知らないお松。賽の河原で悲しい再会を果たす親子。たまらず名乗ろとするが天童が咎め、そこへ一旦は浄土に昇ることが出来たお園も邪淫妄語を犯したと地獄の赤鬼青鬼に追い立てられてやってくる。ようやくお松は自分の親と気が付き再会できた父母子だったが無情にも再び引き離されてしまうのだった-。

夢醒め:
悪夢に咲き叫び目を開けると…すべては病床のお園が見た長い夢だった-。うなされたお園を介抱するお梶。清兵衛は小倉の色紙の件は正夢と判断しする。お松は六三郎の手を引いてやって来て、先ほど長庵と七郎助が三社祭の最中に清兵衛に喧嘩を売り叩きのめして、その隙にお園を拉致するという密談をしているのを聞いたという。清兵衛は浅草三社祭の祭礼に「石橋」の仕手方として雇われたのを幸いに、すぐに出張する。

三社祭:
六三郎は三社祭りの祭礼に「石橋」の厳めしい扮装でやってきて長庵の子分たちを成敗する。清兵衛が長庵と七郎助が隠した色紙を見付け、ようやく取り戻すことが出来た六三郎は御家に帰参が許されて、お染を身請けし全てがまとまり大団円となる。祭りの場面だけに華やかな作曲となっており、長唄の「石橋」や筝曲の「八千代獅子」が組み込まれるなど大曲の最後を飾るにふさわしい名作となっている。

三世相は前述のとおり大作であり、あまりにも長い長編なので、今日では一つの場面で独立して演奏される。中でも冒頭「福島屋」は「店先」「縁切り」「長庵殺し」と三編に分けられ、今日では個別に素浄瑠璃で語られている。

詞章



解説