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「子宝」

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あらすじ

常磐津のご祝儀曲には流儀で大事とされる「松」に因んだ「常磐の老松」「常磐の松」「松の名所」「松島」などがあるが、その他に累代の家元文字太夫を祀る広尾祥雲寺を題材にした「千代の友鶴」、縁起の良い「鶴亀」、能楽狂言の翁・三番叟に取材した「祝言式三番叟(しゅうげんしきさんばそう)などもあるが、常磐津史上最古のご祝儀曲に当たるのは本作品である。

正しくは「祝儀子宝三番叟(しゅうぎこだからさんばそう)」といい、狂言同様「おおさへ(大幸)おおさへ(大幸) 悦びありや悦びありや~」という詞章で始まり、目出度い物持ちの代名詞である八幡大尽(大名)と狂言の太郎冠者が掛け合い、大名が瑠璃のような女児六人と玉のような男児六人、計十二人の子宝に恵まれた事を寿ぐ。最後は千代八千代の目出度い文句で結びご祝儀物の要として相応しく、また古浄瑠璃からの古典技法が数多に見られる非常に芸術性の高い作品となっている。

いつの時代も、天下泰平、五穀豊穣、そして子宝に恵まれることは人類の一番の望みであり幸せである。

詞章


大幸(おおさ)へ 大幸へ① 悦びありや悦びありや 我が悦びを此の處(ところ)より外(ほか)へは遣らじと思ふ

大「ハハハハ 罷(まか)り出でたる者は 八幡大尽②です 太郎冠者あるか
太「ハハア 御前に
大「念なう早かった
太「太郎冠者と召さるる故 随分(ずいぶん)物に 罷り立って候
大「太郎冠者に尋ねたき事のあり 身は福人③と見え候か まった徳人と見え候か
太「ドリャドリャ 頼うだる方は 天晴れ福人と身受け候
大「ヤレヤレ 目利きかな目利きかな エエ身共こそ福者にてあれ 其の中に子福者にて 子供十二人持ち候 上六人(かみろくにん)は瑠璃⑥のやうなる女児(めなご)にて 下六人(しもろくにん)は玉⑦の様なる男児(をのこご)にて候 其の十二人の子供らを 車座⑧にぐるりッと直し置き 一度に呼ぶやうに名を付けて候
太「げにげに 目出度き御事かな シテ其の御名は 何と御付け候ぞ
大「先ず おっとりちがひ おとよけさやよ たつ松ゐる松 だんだらいなごに かいつくひっつく火打袋(ひうちぶくろ) ぶらぶらと付けてあれ⑤
太「さてさて 珍しき御名にて候
大「されば此の十二人の子供らが 四季の遊びの面白き
太「それは目出度き御楽しみ その和子達の御遊び 茲(ここ)にて学び御見せ候へ
大「なかなか易き御事 まづ太郎冠者には 元の座敷へおもおもと直り候へ
太「某(それがし) 座敷へ直らうずる事 頼うだる方の御学びより易う候 平に御学び候へ
大「平に御学び候へ
太「あゝら やうがましや とうとう御始め候へ
大「心得申して候

佐保姫(さほひめ)⑨の 霞長閑(のどか)に明け初めて 今朝(けさ)白々と富士の顔 映る鏡の影添へて 松と竹との二柱 賑ふ春の稚事(をさなごと) 門に遣り羽子(はご)⑩すめる代に 風吹くな尚吹くな 金の團扇(うちは)で追羽根⑩せうと 仰る突くや手毬の数へ唄⑩ 一つと言って二月(きさらぎ)の 種蒔く小田の神祭り 振分髪(ひりわけがみ)の可愛(いたい)けに 緋無垢は椿 白無垢は 梅の蕾の風車 くんるくるくる廻る日の 早や鶏合わせ雛遊び⑪ 妹背変はらぬ諸白髪(もろしらが) 頂く軒に菖蒲(あやめ)ふく

幟兜(のぼりかぶと)⑫の勇ましく 菖蒲(しょうぶ)打合ふ形振り⑬の 猛きは尚も潔く 暇行く駒の竹の尾に 鞭を紅⑭ 手綱かい繰り りんりんりん 納涼(すずみ)にいそ⑮の蛍狩 柳の水の影いそぐ 手に手を取りて鵲(かささぎ)の 逢瀬を渡す天の川⑯ 笹に一夜の散らし書き さらさらささら 團扇太鼓の拍子よく 皆撫子(なでしこ)⑰の手を揃へ 優しき声の張強く

競り合ひ申そ 張り合ひ申そ 競り合ひ張り合ひ 石投げいやよ 此方(こち)の踊りは アア花踊り 惚れたらござれ 惚れたらござれ 惚れてほの字の 文書(ふみか)き初めて 似合はぬとても縁ぢゃもの

其の着綿綿(きせわた)の菊重ね⑱ かをる袖書き仲もよく 火焚(ほたけ)祭り⑲のとりどりに 花を飾りし裲襠(うちかけ)匂ふ 産神詣で⑳黒髪に 置く白雪の㉑降れや積れや 積れや降れや 招くや歳の貢物㉒ 絶えず変らぬ童(わらんべ)の 竹馬(ちくま)遊びの千代かけて 千代に八千代にさざれ石の 動かぬ御代こそ目出度けれ

解説


①大いなる幸い。

②目出度い物持ちのこと。

③幸い多く恵まれた人。

④品行方正で人から尊敬される徳のある人。

⑤十二人の子供たちの名前だが江戸時代においては聴衆の笑いを誘った。

⑥紫色の美しい珠。

⑦宝石。

⑧車輪のように周り座る事。

⑨春を司る女神。

⑩すべて正月の遊び。

⑪はやくも三月節句になったこと。

⑫五月五日の節句。

⑬菖蒲という草で作った刀で武士の合戦の物まねをして遊ぶ事。

⑭手綱の色と鞭をくれることをかけたもの。

⑮急ぐと磯をかけたもの。

⑯七夕の夜空の天の川に架かる橋を「かささぎの橋」と言う。

⑰優しい声を発しながら踊ることを表現。

⑱九月九日重陽の宴に菊に綿を着せて香りを移しとったもので体を撫でると延命になるという伝説を引いたもの。

⑲陰暦11月に各神社で庭火を焚く事を「御火焚(おほたき)」と言ったことから。

⑳生まれたばかりの児を抱いて土地の氏神へお参りする事。

㉑黒髪もいつか白髪になる事を白雪にかけたもの。

㉒ことわざ「雪は豊年の貢」にかけたもの。