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「蜘蛛の糸・切禿」

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あらすじ

この作品は、源頼光四天王である「坂田公時(金時)」と「碓井貞光(うすいさだみつ)」が病に伏した頼光の寝所を守っている所へ、土蜘蛛の精が切禿(頭髪を肩の辺りで切り揃えて結ばないでいる髪形の童)や奥州座頭(仙台浄瑠璃を語り歩く座頭)、山伏の姿に化けて襲い掛かるといういわゆる「四天王物」である。

能楽の土蜘蛛に取材しているが大半を変えており、上には切禿、中は仙台浄瑠璃、そして下は長唄との掛け合いで化生の姿を現した土蜘蛛の精を両人が退治する趣向となっている。

詞章


人知れぬ 心は重き小夜衣の 恨みん方も無き袖を 片敷き詫びるお夜詰(よづめ)①の 碁打②偏継③(ごうちへんつぎ)十炷香(じゅしゅかう)④の 昨夕(ゆうべ)の色香引替て 今宵は髭の宿直物(とのゐもの) 厳物(いかもの)作りの両勇士 君を守護なす有様は げに徒(ただ)ならぬ多田の御所⑤

武将源の頼光公 御心地例にならず醫祷(いたう)百計弛み無く とりどり様々御枕に 御簾(みす)洩る風の訪れも いと物凄き折こそあれ

公「コレ貞光 コレ貞光
貞「ウウウゥ
公「ハテさて 大切な宿直をしながら さても能(よ)う寝るぞ
貞「ヤコレ公時 人の一寸は見ゆれど 我が身の一尺とやら 餘り其方がコクリコクリ睡(ね)るから 己(おれ)もうつって遣ったものよ
公「ャ口賢い事を言ふ シタが 今宵に限って此の様に睡いと云ふは ノゥ貞光
貞「オォ こんな時にはベトベトするやうな茶を 一服飲みたいものだノゥ
公「然(さ)ればサ 咽(のど)のヒリヒリ 疼(ひり)付く様な濃い茶を 己も飲みたい ドリャ目覚ましに

一服と煙管の火皿 炎々と 烟草(たばこ)の煙
更け渡る 夜も烏羽玉⑥の切禿(きりかむろ)⑦ 都育ちか京人形 ちょこちょこ歩む後ろ紐 お茶の通ひのにこにこと 合点合点 愛嬌(しほ)の眼 頭(かむり)振る降らぬ間に 摘んで置けとは ナンナン栂(とが)の尾山の春の 若草茶の木の事よ 茶々に浮かしてやっこのこのこの この目を覚ましてやろ このこのこのお茶参れと差し出だす

貞「何だ茶だ 是や好(よ)い所へ持ってきた 何(ど)れ

と取らんとせしが

貞「ムゥ つひに見馴れぬ小僧だが 汝ゃ何処から来たえ
禿「あい 私はお茶の間に 居りまする者でござりまする 其れを知らぬと仰有(おっしゃ)るは強(きつ)い嘘や
公「ムフ ハハハハ 何だ お茶の間に居る お茶の間に居る物を我々が 知らぬと言ふ事は無いが 茶道頭の名は何と云ふ 汝(われ)や知っているか
禿「あい 幽谷齋(いうこくさい)と申しまする
公「ムゥ 何だ幽谷だ 而(そ)して幽谷齋と云ふ字は 何と書く
禿「幽かの谷と書きまする かの商山の四皓(しかう)⑧を採って付けられた と見えます
公「ムゥ ハテ 形(なり)に似ぬ小癪な事を言ふな そして 汝ゃ誰が子だ
禿「あい 私は
公「イヤさ 何者の倅だよ
禿「サァ それは
公「どうだ

と問ひ懸けられて すっくと立ち 月の澄む 軒端に懸る蜘蛛の糸 有るか無きかの身は如何(いか)にせん 有るか無きかの小童を 痛くも問はせ給ふなと ニッコと笑みたる有様を

心附かねば両人は さても希代の童やと 顔を眺めて居たりしが 睡気(ねむた)覚ましと貞光が

貞「さて 一不審(いちぶしん)参らうか 我が神国⑨の神の意(こころ)は
禿「素直に映る鏡の影
公「いで 公時が問ひ懸けん 児童が胸中(むね)にも明鏡有りや

有ればこそ 真如の月も天上(そら)に有り 其の月の数覚えてか 然(さ)ればいなァ お月様幾つ 十三七つ⑩ 雲が懸らば 風を以って是を拂う 大千世界⑪はさて如何に オォ 其れこそは凧(いかのぼり) 清く澄めるに騙くれて 延ばせば伸びる糸筋の 棚引き上って天と為(な)る 切って落つれば地となりぬ

「また隠遊(かくれんぼ)の始まりは 
「ドッと神代の其の昔 天岩戸⑫に隠れんぼ 今に伝へて神国の 子供遊びとなりにけり
「雛の祭りは 「嫁入りの手習ひ
「幟兜や菖蒲打ち⑭ 菖蒲刀は如何に如何に
「其れは武芸の始めなり 駒の手綱はコレコレ コレコレコレ 斯う取って

やよややんちゃや 真紅手綱の小總(こぶさ)小綱を こがら巻いた サァ 赤貝馬のシャンシャンシャン シャンと乗っては手綱掻ひ繰り シツシツドウドウ どどんと ドッコイドッコイサ 伊勢の鈴鹿で 朝の出掛けにゃ小室節 出掛けにゃ朝の 朝の出掛けに小室節 轡(くつわ)の鈴が りんりんがらがら りんがらがら りんりんがらがら りんがらがら ハイどうハイどう ハイハイハイ

天晴れ御馬の上手と上手が 乗ったか乗ったぞ しとしとしと
ソレソレ ソレソレソレと 化生⑭は其の儘(まま)頼光の 寝所を目懸けて入らんとす こは心得ずと公時 貞光 支へ止どむる袖袂 

掻い潜り掻い潜り 此処に現れ彼処に失せ 業通⑮自在の其の振舞い

「ヤァ 正しく変化 御座んなれと

一度に刀抜き翳(かざ)し 拂へば後ろに有明の 突き止めんにも居もためず 切禿の形は消えて失せにけり

解説


①夜間の職務の為その場にずっと詰めていること。宿直。

②碁石と碁盤を使う室内遊戯。古くは乱碁・弾碁・格碁などを含めたさまざまな遊戯の総称。
③文字遊戯の一。漢字の旁(つくり)を示して、これに種々の偏を付けた文字を次々と考えさせ行き詰まると負けになるもの。

④組香の一。三種を三包ずつ,一種を一包の計一〇包の香木を順不同にたき,その香りを聞き分けるもの。

⑤父親「源満仲」から相続した摂津国多田(初めて武士団を形成した地)にある御所。

⑥烏羽玉は黒いところから「黒」「闇」「夜」「夢」などにかかる。ぬばたまの。むばたまの。

⑦参考:遊郭

⑧中国秦代末期、乱世を避けて陝西省商山に入った東園公・綺里季・夏黄公・里先生の四人の隠士。みな鬚眉が皓白の老人であったのでいう。画題とされる。

⑨神が開き,守護している国。また,皇孫が君臨する神聖な国。特に日本で,自国を称していった語。神州。かみのくに。一説では土蜘蛛は朝廷に反抗した土着民とも言われている。

⑩江戸時代にはやった童謡。

⑪参考:仏教

⑫日本神話に登場する岩でできた洞窟。

⑬菖蒲(端午の節句に用いる赤みを帯びた白色の草。葉は剣状で中央脈が目立ち厚く香りがある)刀に見立ててちゃんばらチャンバラ遊びをする事。

⑭化けること。化け物。妖怪。

⑮参考:仏教