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「高砂の松」

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あらすじ

肥後の国阿蘇神社の神主が従者を連れて旅立った。立ち寄った播磨の国高砂の浦で老翁が金色の箒で松の周辺を掃き清めているのに出会う。

高砂の松がどの木かを尋ね、住の江の松は国を隔てているのに何故「相生の松」と云うのかを問うた。老翁は今清めているのが高砂の松で「たとえ万里を隔てても夫婦の愛は通い合うもの」と言い高砂・相生のいわれを述べる-。

この曲は、天保4年に九世家元四世文字太夫が人形遣いの西川伊三郎と提携し作ったもので、四世西川扇蔵が振付を担当するなど特殊な演出で初演された謡曲「高砂」を和らげて作られた作品である。

なお、当流では神主は松を愛でる旅人とし有名な一説「高砂や 此の浦船に~」も割愛されている。

詞章


旅ごろも 末はるばる①の都路(みやこじ)②を 都路を今日思ひ立つ浦の波 静けき御世に住吉の③ 松と尾上の女夫松(めうとまつ) 名も高砂の古跡を④尋ね 遥々此処に著衣(きそ)始め 目出度き御代に相生の⑤ 千歳の緑年ごとに 若やぎ返る春景色

翁「抑々 これは松を愛づる翁にて候 此の度高砂の松を一見せばやと存じ 急ぎ候程に 早着きて候

見渡せば 長閑(のどか)に波も治まりて 枝も鳴らさぬ時つ風 やごと渚の浦伝ひ 上代(じゃうよ)の姿 尉(じょう)と姥(うば) 鶴の衣の袖添へて 塵打ち拂ふ玉箒(たまはばき) 黄金の熊手落ち葉掻く 松の汀に遊び居る 神か人かも白波の 寄する傍(かたへ)に立ち休らひ

旅「其れなる御方に物申さん 高砂の松とは 何れの木を申し候ぞ
翁「さん候 是なる松こそ高砂 住の江の松にて候
旅「夫(それ) 住の江は浪華(なには)の果て 高砂は播磨にて 路(みち)の程も遥かなり

など相生の松とは是如何に 紀の貫之⑥が筆の跡 古今集にも表せり

旅「然(しか)らば 女松(めまつ)は何れに在りや 一樹(ひとき)を以って相生とは

アァ 轉(うたて)の仰せ候ぞや 非情の物も年を経て 通力⑦自在の妹背⑧の契り 是御覧ぜよ此の松の 幹は男松(をまつ)の候へども 枝葉は優しき女松にて 互いに情け相生の⑨ 一樹と現れ候ぞや

旅「げにげに 謂(いはれ)を聞けば面白や して住吉と申すは如何に

オォ其れこそ 今の御世に住みたまふ 延喜の君⑩の御事にて 松とは尽きぬ壽(ことぶき)の 御世を祝せし詞(ことば)なり 松諸共に相生の 契りは尽きぬ千代八千代 緑深むる色は尚 真折葛(まさきのかつら)⑪長き夜を 待ち明石たる⑫暁(あかつき)の

尾上の鐘も恨めしく 心も須磨の⑬群千鳥(むらちどり) とても今宵は淡路島⑭ 姫路心⑮の後や前(さき) それは若松誰をかも 知る人にせん高砂の 松は昔の友達の 過ぎ来し世々は白雪の⑯ 頭(かしら)に積る老いの鶴 塒(ねぐら)に残る有明の

月諸共に出で潮の 出羽の掾(じょう)⑰より十返(とかへ)り⑱の 千代も変らぬ常磐津に 語り伝へて高砂の 松の栄ぞ目出度けれ

解説


①衣を張るに遥々をかけたもの。

②現在の京都のへ道だが、常磐津源流「宮古路節」とをかけたもの。

③静かな御世に住むと住吉をかけたもの。

④摂津国(大阪)の住吉の松と、播磨国(兵庫)の高砂の松とを併せて言ったもの。

⑤逢うと相生をかけたもの。

⑥歌人:紀貫之。

⑦参考:仏教用語

⑧夫婦。夫婦の仲。

⑨一緒に生育すること。一つの根元から二つ幹が分かれて伸びること。2本の幹が途中で一緒になっていること。

⑩醍醐天皇。

⑪観賞用として栽培される植物。

⑫待ち明かすとかけたもの。

⑬心も澄むとかけたもの。

⑭今宵は逢えぬとかけたもの。

⑮娘心と姫路をかけたもの。

⑯知らないと白雪をかけたもの。頭髪が白くなり時が経ったことにかける。

⑰常磐津初代家元「伊藤出羽掾」の事。

⑱松が百年に一度花を咲かせることを「松の十返り」と云う。