HOME > お染七役

「お染の七役」

osomenanayaku.jpg

あらすじ

お染久松を題材にした作品は数多くあるが、安永9年(1780)に先行作品に対して「新作」の意味を持つ文楽作品「新版歌祭文」が最も有名である。この作品は天明5年(1785)には歌舞伎化され大好評を博した(現在では中の「野崎村」だけが独立して上演されることが多い)。

文化10年(1813)には、上記「新版歌祭文」の舞台を江戸に移した「お染久松色読賑(おそめひさまつうきなのよみうり)」が作られ、一人の役者(五世岩井半四郎)が登場人物7名(質屋油屋のお染・丁稚久松・母貞昌・奥女中の姉竹川・土手のお六・芸者小糸・久松の許嫁お光)を七変化の早変わりで演じ分ける趣向の大切浄瑠璃「心中翌日噂(しんじゅうあすのうわさ)」が常磐津出語り(二世小文字太夫・三世古式部・五世式佐)で上演された。

これを通称「お染の七役」といい、近代では長く途絶えていたものを渥美清太郎改訂で前進座の五世河原崎国太郎により復活上演された。

身分・年齢・性の異なる七役変化の早替わりが一番の見どころであり素浄瑠璃では上演されない。素浄瑠璃では今作に加筆が加えられた「初恋路千種濡事(はつこひちぐさのぬれごと)」の上の段「土手場」・中の段「お光物狂」が共に名作で人気が高い。

詞章

愛しいと 可愛いと云う二人連 離れて一人久松が 疵もつ蘆の片葉さえ そよぐはもしや追手かと 胸とどろかす水の音 一人うなづき久松①は しばし木蔭へ身をしのぶ 

こんな仕事に当ろふはしが 夕べあんどに丁字ができて 内の母奴がねずみ泣き しょんがいな せかるる心やるせのう 見返る雁の女夫連れ こなたもさすが思ひやり オォ合点と庵崎の 立場をさして急ぎ来る その駕籠もどしや 後を慕ふて

結びてし 効もゑにしの糸萩を 散らす野分の轉てや②つらや 行方いづくと白露の お光が心みだれ髪 さらさら更に分くかたも 泣いてひぐらし③夫蟋蟀(こおろぎ)④は 野暮とやらじゃと笑ふは花の八重に色付き一重に開く 此方の心は酌みもせで よそに交した妹背草⑤ さかりも見せで散るならば 共に連れてはくれもせで エエ憎いほどなを川の面 水に仲良き浮寝鳥⑥ 浮きにうかれて川伝ひ ねぐらを急ぐ二人連れ 派手な噂を聞いてさへ エエ癪と言ふものつひ覚へ 在所⑦生まれの私でも 許嫁すりゃ女房じゃもの 悋気の仕様は知りながら 言はで月日をくよくよと 松にしぐれのお染さん 連れて共々駆け落ちと 聞いて身も世もアラ憎や 我が夫返せ憂き人を 其処か此処かと追ひ風に 姿しどなくふしまろぶ

はらひ清め奉る お御嶽石尊大権現 抱いて念願上首と君が 袖褄彦山讃岐にどうぞ おふ夜松山も 先じゃ白峰 伯耆に御苦労 大山葛ら城 夜山にしっぽり中宿へ さんじょ大峯 釈迦が嶽 役行者御祈念に 慎みたまふと加持しける お光はすっくと アレアレアレそれそれそれ 恋しき人を都鳥 有りや無しやと現なく 止めるを拂ひふり切って 當てども波の川岸を くるひ慕うて走り行く

連れて帰りましょ 浮いた波とや山谷の小舟 焦がれ焦がれて通はんす 更けぬ内にと夕間暮れ 土手⑧の彼方へ急ぎ行く せめてもの思ひも 今は春雨に 未来へ行ったらしっぽりと そうてたもと⑨の染模様 それが心の花の露 思へばとても大恩の御主の娘⑩と不義の咎 一緒に死ぬる悪縁と 思いお染も好いた同志 いく久松⑪と末の世に結ぶ誓いも深みどり 浮名⑫ばかりぞ

解説

①相良家の遺子。乳母の兄にあたる野崎村の百姓「久作」に預けられ成長しお光と許嫁になるが、大阪の「質屋油屋」に丁稚奉公しているうちに主人の娘「お染」と恋仲になってしまう。

②情けない。

③泣いて日を暮らす、と鳥のひぐらしをかけたもの。

④妻を恋う、と虫のコオロギをかけたもの。

⑤久松がお染と恋仲になったこと。

⑥二人を水鳥に例えたもの。

⑦片田舎。

⑧向島の土手。

⑨お光の心情「未来では添うて給う」と「袂(たもと)」をかけた。

⑩お染の事。

⑪いく久しい、と久松をかけたもの。

⑫恋愛や情事のうわさ。艶聞。